ここでは、コース(*)を構成する(京大では)14回の各回の授業(class)におけるデザインや授業方法について説明します。近年では、とくに講義科目をアクティブラーニング型授業に転換していくことが求められていますので、それについても説明します。
(*) カリキュラムを構成する授業科目(course)のこと。日本では、大学設置基準に基づき、「講義科目」「演習科目」「実験科目」といった科目分類がなされている。
授業のデザイン・方法
1.1 講義のメリット・デメリット
【長所】
- 教員の講義パフォーマンスが高い場合には、学生はぐっと惹きつけられ、興味や関心を喚起させられる。
- 短い時間で、多くの情報量を伝えることができる。
- 教科書から離れた知識や話題、教科書にはない最新の知識や学術の動向などを伝えることができる。
- 一般的には講義の学生へのインパクトはアクティブラーニングなどの他の方法比べて弱いが、能力の高い学生に対しては例外であり、講義のほうがより高い成績を示すこともある。
- 記憶再生(知識の定着率)の観点からは、アクティブラーニングのほうがより高い成績を示すという知見があるが、理解力の観点からは、一概にこの関係は示せないという知見もある。場合によっては、講義のほうが高い成績を示すこともある。
【短所】
- 教員の講義パフォーマンスが低いと、学生は惹きつけられず、興味や関心を持って受講しない。
- 一般的に、知識の定着には、書く・話す・発表する等の活動(演習)を取り入れたアクティブラーニングのほうが効果的だとされる。アクティブラーニングは、アウトプット、他者との議論等をおこなう際に、経験や素朴な見方など自身の知識世界に基づく、あるいはアクセスした情報処理(自己関連づけ)をおこない、それが講義での「聴く」以上の複雑な情報処理をともない、その結果、知識がより記憶に残りやすくなるのだと考えられる。
- 昨今求められている能力育成に照らして、論理的・批判的・創造的思考力や問題解決などの思考力や判断力を育てることができない。これらを育てるには、書く・話す・発表する等の表現(アウトプット)を伴うアクティブラーニングが必要である。
1.2 シラバスを書くところから授業づくりは始まっています
(全学共通科目を例にとると)シラバスは、
- 授業形態(講義・演習・実験など)・配当学年・対象学生
- 授業の概要・目的
- 到達目標
- 授業計画と内容
- 履修要件
- 成績評価の方法・観点及び達成度
- 教科書
- 参考書等
- 授業外学習(予習・復習)等
の観点で書くように求められます。これらは授業を構成するポイントとなります。
シラバス作成の段階で、まず考えなければならないのは、(2)に基づいての(3)(4)(6)です。(3)(4)(6)は相互に関連し合っています。
- (3)の到達目標は、(2)のとくに目的に基づいて、「~を理解すること」「~ができること」というように、教師がこの授業を通して理解させたい知識、身につけてほしい技能や態度、能力(論理的・批判的思考、科学的思考、議論や発表する力など)のことです。
- (4) の授業計画と内容は、(3) の到達目標に到達するように、14回の授業内容を計画します。
- (6)の成績評価の方法・観点及び達成度は、(4)によって(3)に到達したるかを評価します。知識の理解については、伝統的なテスト・レポートでいいと思いますが、技能や態度・能力については新しい評価法を学ぶ必要があります。詳しくはこちらのページをご覧ください。
次に、(9) 授業外学習(予習・復習)等について考えます。大学の授業は、単位制(大学設置基準第21条)に基づいておこなわれており、90分の2単位講義であれば、毎週4時間の授業外学習を課す必要があります。
- 授業外学習は、学生が自由におこなう自学自習と違って、授業を担当する教師に課せられる法制度に基づく義務事項です*。杓子定規に1授業に4時間の授業外学習を課すのは現実的ではないとも言われますので、現実的に考えて、最低1時間~1時間半くらい、理想的には2時間程度の授業外学習を課す必要があると考えられています。
*京大生の授業外学習・自主学習時間の実態…京都大学の全学並びに学部では、認証評価等の外部評価を受けるために、京大生の授業外学習時間を示しています。自学自習の時間も含めて、全国的に見て決して高い学習時間となっていません。
1.3 良い授業とは
- 何を教えたかではなく、学生が何を学んだかが重要です。たとえ授業の準備をしっかりおこなっても、大きな声で話しても、ICTやツールを使っても、学生の学習の結果が十分なものでなければ、それは良い授業とは呼べません。良い授業とは、学生の学習成果が授業者の期待するもの(*)に到達したかをもって、判断されます。
(*)シラバスに書いた目的・目標や各回の授業でねらいとする目標など
- 学習成果が到達される目標に到達したかを知るためには、アセスメントが必要です。
- 近年、授業の目的・目標が知識の提供だけではなく、関連する技能や態度・能力を育てることに置かれるようになっています。技能や態度・能力を育てるためには、演習科目ではもちろんのことですが、講義科目のなかでもある程度のアクティブラーニングが求められます。
1.4 各回の講義をおこなうポイント
- 教える内容を精選する
熱心な教師ほど、教えなければならない知識・情報が山ほどあって、1回の授業に多くの知識・情報を詰め込もうとします。しかし、過度の情報量は学生の学習の質を落とします。優先順位をつけて、教える内容を精選しましょう。
- 授業外学習を含めて授業をデザインする
予習や復習、宿題などの授業外学習をさせて、授業内でしか教えられないこと・扱えないこと、学生が授業外学習としてひとりでできることを分別した授業デザインをしましょう。授業外学習時間は単位制(大学設置基準第21条)によっても義務づけられています。
- 授業開始前の過ごし方
開始時間になって教師があわてて教室に入ってきて、準備を急いでして、「さあ、授業を始めましょう」と言っても、学生はさっと頭を切り換えて、教師の授業に集中できるわけではありません。
いろいろやり方がありますが、授業の開始5分前には教室に入っているか、教室の前で待機して、教師が授業を始められる態勢になっているというのを学生に見せることは一つの方法です。学生は、休み時間内であっても、教師の姿を見て授業を受ける心の準備を始めるものです。
はじめの5~10分を前回の授業の復習(質問への回答など)や小テストに当てるというのも効果的です。
- 授業の冒頭でアウトラインを示す
その日の授業のアウトラインをPPTや黒板の端に示して、今全体のなかのどこを教えているか、学習しているかを俯瞰してわかるようにします。
- 最先端の研究を紹介する
教科書で理論化された一般的・抽象的な用語、概念が、実際のどのようなテーマや場面で用いられているかを示すために、最先端の研究や自分の研究を繋げて紹介することが重要だと言われます。
- 10分でもアクティブラーニングを入れる
学生は、教師の話を聴くだけでは、ほんとうにその話を理解したかがわかりません。学習も深まりません。90分のうち10分でもいいので、学生の理解をアウトプットさせるアクティブラーニングを入れましょう。
アクティブラーニング型授業(講義+アクティブラーニング)
2.1 アクティブラーニングとは
- アクティブラーニング(active learning)とは、平たく言えば、講義を「聴く」だけでなく、学生が書く・話す・発表する等の「活動」をおこなうことです。ペアワークやグループワーク、プレゼンテーションの活動とも言えます(学術的な説明を知りたい方はこちら)。
- 米国のChickering & Gamson(1987)の次のように述べる見方は、アクティブラーニングの意義を説明します。
「学習とは、観客席に座ってスポーツを見るようなものではない。学生は、授業中ただ座って教員の話を聴き、あらかじめパッケージ化された宿題をやって暗記し、質問に答えるだけでは、多くのことを学ばない。学生は、学んでいることについて話をし、書き、過去の経験と関連づけ、そして日常に応用しなければならない。さらには、そうしたことを通して、自分自身を学ぶというようにならなければならない。」(p.5)
2.2 アクティブラーニング型授業とは
- アクティブラーニングは前項のように説明される主として活動(書く・話す・発表する等)のことですが、この活動が重要だからと言って、講義形式の授業が批判されているわけではありません。アクティブラーニング型授業は、この批判を回避するために作られた用語です。
- アクティブラーニング型授業とは、講義+アクティブラーニングを組み合わせた授業のことです。それぞれを授業を構成するパートと見なし、両者の割合で、主として講義の授業(たとえば講義科目)、主としてアクティブラーニングの授業(たとえば演習科目やプロジェクト学習)を分類します。
2.3 なぜアクティブラーニングが必要か
- 学習の理解を確認するため
- 学習を深いものにするため
(*) たとえば、既有知識や素朴な見方、経験との関連を見つけること、知識群の背後にある一般的な法則や原理を見いだすこと等。
- (専門やテーマ領域固有の)技能・態度(能力)を育てるため
(*) たとえば、論理的・批判的・創造的思考や問題解決能力、情報リテラシーや科学的ものの見方など。また近年では、他者や集団に対する技能・態度(能力)の育成(たとえば議論する力やプレゼンテーション力など)も強調されています。 - 教えられることだけを理解するのが学習なのではなくて、自身の知識世界を「個性的」に発展させることが学習であるため
- (卒業後の)アクティブラーナーを育てるため
(文献)
Chickering, A. W., & Gamson, Z. F. (1987). Seven principles for good practice in undergraduate education. AAHE Bulletin, 39(7), 3-7.
2.4 学内の事例
薬学部初年次科目「薬学研究SGD演習」
薬学研究者や医療従事者(主に薬剤師)をめざす学生としての、
- コミュニケーション技術の獲得
- 論理的思考力の醸成
- 課題発掘・解決能力の育成
- グループワークの体験
などを目的とした、1年生向けの授業です。
オンライン・ハイブリッド型授業
3.1 オンライン授業とは
オンライン授業と対面授業を組み合わせて実施する授業形態です。組み合わせには、いくつかのパターンがありますが、以下のページでは、ハイフレックス型と、ブレンド型、分散型の3つに分けて説明しています。
→詳しくはこちら
3.2 ハイブリッド型授業とは
オンライン授業と対面授業を組み合わせて実施する授業形態です。組み合わせには、いくつかのパターンがありますが、以下のページでは、ハイフレックス型と、ブレンド型、分散型の3つに分けて説明しています。
→詳しくはこちら
3.3 学内の事例
学内でのオンライン授業、ハイブリッド型授業の実践事例については下記の学内講習会のアーカイブ(学内限定ページ)からご覧いただけます。
反転授業
4.1 反転授業
- これまで教室でおこなっていた講義を、ビデオを用いて自宅であらかじめ学生に視聴させ、教室では演習や発展的内容をおこなうという授業形態です。各受講者の前提知識や内容の理解の早さは異なるため、それぞれの学生が各自のペースで内容の理解を進めることができます。毎回の授業の開始時に、ビデオの内容の理解度を確認するために小テストをおこなう場合もあります。
- 反転授業は、大きく分けて、次の2種類に分類されます。「完全習得学習型」は、「早い時点で学習者の評価を行い、理解していない生徒に特別な処遇を与えることによって、全員が一定基準以上を理解することをめざす教育方法」であり、「高次能力育成型」は、「アクティブラーニングと呼ばれる読解・作文・討論・問題解決などの活動において分析・統合・評価のような高次思考課題を行う学習」です(バーグマン・サムズ, 2014, p.8-10)。
4.2 学内の事例
京都大学での反転授業の実践事例は以下からご覧いただけます。