溝上(2014)では、

一方向的な知識伝達型講義を聴くという(受動的)学習を乗り越える意味での、あらゆる能動的な学習のこと。能動的な学習には、書く・話す・発表する等の活動への関与と、そこで生じる認知プロセス*の外化を伴う。
*認知プロセスとは、知覚・記憶・言語・思考といった心的表象としての情報処理プロセスのこと。「思考」には、論理的 / 批判的 / 創造的思考、推論、判断、意思決定、問題解決などがあります。

と定義されています。ポイントは下記のとおりです。

  1. 講義での「聴く」を受動的学習と操作的に定義をし、それを乗り越える意味での能動的な学習をアクティブラーニングとする。
  2. (1)に基づく能動的な学習を「活動」(書く・話す・発表する等)と「認知」(知覚・記憶・言語・思考)をともに活性化させ協奏させることによって創り出す。話す・発表するといった活動は、ペアワーク、グループワーク、プレゼンテーションとも呼ばれる。認知は、Wiggins & McTighe(2005)が述べる「活動主義」(活動ばかりが豊かで学びが深くないこと)への批判にも対応する。
    ・ アクティブラーニングは、2012年のいわゆる『質的転換答申』で施策化されました。そこでは、が次のように説明されています。
教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり、学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・学習法の総称。学修者が能動的に学修することによって、認知的、倫理的、社会的能力、教養、知識、経験を含めた汎用的能力の育成を図る。発見学習、問題解決学習、体験学習、調査学習等が含まれるが、教室内でのグループ・ディスカッション、ディベート、グループ・ワーク等によっても取り入れられる。 (中央教育審議会『新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて(答申)』 (2012年8月28日)

注1)溝上(2014)の定義に基づくものを「アクティブラーニング」とし、次に説明する中央教育審議会答申をはじめとする文部科学省の施策用語を「アクティブ・ラーニング」として区別している。中黒「・」が入るか入らないかの違いをつけている。施策の説明はそれとしてしっかり確認し、そのうえで学術的に自由に検討する余地を残すため、中黒を取っている。

注2)質的転換答申では、学習は原則として「学修」と表記統一がはかられている。これは大学設置基準の第21条の単位制に基づいての表記統一である。しかしながら、これだと、学生にとっての学習とは、正課・準正課教育に関わる学習のみを扱うという制約がかかり、たとえば本学の基本理念にもある自学自習を軽視することにも繋がる。アクティブ・ラーニングは正課・準正課教育に関わる学習を指すことが多いので、そこだけを見れば問題はないが、「学修者」という表現、あるいはアクティブラーニングを通して「アクティブラーナー」を育てるといったときに、用語使用に混乱を招く。こういう理由から、センターでは広く「学習」を用い、「学修」はその一つであるという理解をする。


1.共通点

どちらも授業に書く・話す・発表するなどの活動を伴う学習形態を導入して、講義一辺倒の授業を脱却せよ、と主張している点では共通している。とりわけ、学習を個人的なものから他者や集団を組み込み、協働的なもの、社会的なものへと拡張していく点(=学習の社会化)は、これまでの学習が個人の知識・技能の習得を中心としたものであったことをふまえて、最大のポイントとだ言える。

2.相違点

二点相違点が見られる。

一つはロジックの採り方の相違である。 質的転換答申では、要は、技能・態度(能力)を育てるためにアクティブ・ラーニングを導入せよ、というロジックの主張をしている。「学修者が能動的に学修することによって、認知的、倫理的、社会的能力、教養、知識、経験を含めた汎用的能力の育成を図る」という説明がこれに該当する。そして、「発見学習、問題解決学習、体験学習、調査学習等が含まれるが、教室内でのグループ・ディスカッション、ディベート、グループ・ワーク等」といった活動への関与が、技能・態度(能力)育成のための手段だと見なされている。 これに対して溝上(2014)は、学校から仕事・社会へのトランジション(移行)課題の解決のために、成長指標(目標)を学習と成長パラダイムに基づいて設定し、その実現のためにアクティブラーニングを導入せよ、というロジックの主張をしている(溝上, 2016)。質的転換答申のアクティブ・ラーニングの目指す先は技能・態度(能力)の育成にあるが、溝上(2014)のアクティブラーニングの目指す先はトランジション課題の解決をはかった学生の成長にある。

二点目は、定義や説明に見られる構成要素の相違についてである。質的転換答申では、アクティブ・ラーニングとは、学生を「発見学習、問題解決学習、体験学習、調査学習等が含まれるが、教室内でのグループ・ディスカッション、ディベート、グループ・ワーク等」といった活動へ関与させることと説明されている。構成要素は、活動への関与だけである。しかし、ただ学生を活動に関与させればいいと説明しているわけではなく、「認知的、倫理的、社会的能力、教養、知識、経験を含めた汎用的能力」が育つような成果ベース(outcomes-based)活動と説明されている。ここには留意すべきである。 これに対して筆者は、(書く・話す・発表するなどの)活動への関与と認知プロセスの外化をセットにしてアクティブラーニングを定義している。そこでは、技能・態度(能力)の育成を含めた、より広範な成長を実現するための要件として、認知プロセスの外化を加えている。構成要素は、活動への関与と認知プロセスの外化の2点である。技能・態度(能力)の習得を含めた学生の成長が実現するときには、両者が十分に協奏したときの結果であると見なされる(詳しくは溝上, 2016)。

(文献)

溝上慎一 (2014). アクティブラーニングと教授学習パラダイムの転換 東信堂
溝上慎一 (2016). アクティブラーニングの背景 溝上慎一 (編) 高等学校におけるアクティブラーニング:理論編 (アクティブラーニング・シリーズ第4巻) 東信堂 pp.3-27.
Wiggins, G., & McTighe, J. (2005). Understanding by design. Expanded 2nd edition. Upper Saddle River, N.J.: Pearson Merrill Prentice Hall.

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